トルコ大震災を受けて。

2月6日にトルコ南部で発生した大地震のニュースが毎日報道されています。
2月17日の報道では、死者数が42,000人を超え、損壊した建物が16万990棟、倒壊もしくは修復不能な建物が5万576棟に上ると報じられました。
まさに未曾有の大惨事です。被災された方が1日でも早く安全な環境を得られることをお祈り申し上げます。

□パンケーキクラッシュ

今回のトルコ大地震で「パンケーキクラッシュ」というワードが注目されました。
建物を支える柱などが地震の揺れで急激に破壊され、強度が一気に失われた結果、上の階が下の階に次々に落ちてパンケーキのような形になる現象で、数秒間のうちに建物全体がほぼ真下に崩れることがあり、建物の中にいた人が逃げるのは難しい、危険な崩壊と言えます。
日本でも平成7年の阪神淡路大震災で、2階を柱だけで支えるような吹き抜け構造の建物などでパンケーキクラッシュが発生したと言われています。
パンケーキクラッシュが発生すると避難が困難なので、パンケーキクラッシュが発生しない耐震などの対策を講じた建物で生活するなど事前防災が重要だと言えます。

□トルコの耐震基準が良くなかったからなのか

海外での地震被害が報道されると、「海外は日本と違って耐震基準が緩いから被害が発生しやすい」というようなコメントが多く見られるのですが、トルコでは1999年に発生したトルコ北西部地震の被害を受け、耐震基準の見直しが行われ、その基準は日本と変わらない厳しい基準だと言われます。

そんなトルコで今回の地震被害を受け大問題となっているのが、建築恩赦という制度です。
改正された耐震基準を満たさない建物でも、行政に書類を提出するだけでそのまま継続利用して問題ないとされる制度です。
経済的な事情からこういった制度が運用されたのだと思いますが、大自然の驚異に対して経済的な事情が通用する訳もなく、被害の拡大の要因となってしまいました。

□既存不適格建築物

建築基準は年々アップグレードされるので、築年数が経過する中で建築基準が変わり、現行の基準へ改修などで対応した方が良いとされる建物を既存不適格建築物と言います。
耐震の例で言うと、日本では1981年5月以前に建てられた建物を既存不適格と位置付け、耐震診断や耐震改修を実施することが推奨されています。
住宅政策の中で耐震化の数値目標を掲げ、国や自治体による補助制度などが運用されてきました。
ただ、この耐震化に関する日本の動きは義務ではなく、あくまで建物所有者による努力目標となるため、経済的な理由などから建物の耐震化が実施されていない建物がまだまだ存在します。
特にマンションは耐震診断や耐震改修にかかる費用が高額になることもあり、住民の合意が得られず、なかなか実施に踏み切れない建物も少なくありません。

ここまで記載してお気づきの方もいらっしゃると思いますが、日本の耐震化の実情は、本質的にトルコにおける建築恩赦と同じで、大きな地震が発生してしまうと、旧基準のままの建物は危険な損壊になってしまうことが懸念されます。

□旧耐震の建物でも普通に取引されています

現在の不動産流通で、旧耐震の物件は売ってはいけないとか、耐震化を行わないと買ってはいけないというような国が強制するルールは存在しません。
不動産契約の手続きの中でも耐震診断書の有無が記載されるだけで(残念なことに、有にすると診断書の内容を説明する必要があるので無になっていることが多いです)、耐震性についてはこれから住宅を買う人が注意しなければならない状況です。
賃貸も似たような状況で、旧耐震の物件だからと言って貸してはいけないというルールは存在しません。

旧耐震の物件でもそのリスクを十分に把握した上で購入するのであればまだ良いのですが、旧耐震物件の「安さ」だけに注目して安易に旧耐震物件を選択する人が少なくなく、価格重視の物件購入のため、必要な対策が講じられていない状態が多いのが問題です。

□旧耐震物件に対する考え方の違いで事業者のポリシーが確認できます

私はお客様から相談された際には、安易に旧耐震を選択してもらいたくないので、「旧耐震の物件は非常に難しい」と説明します。
しかし、中には旧耐震物件を「ヴィンテージ」といって、さも価値がありそうな表現で勧めてしまう事業者も存在します。そういった事業者は「いつ起きるかわからない地震に怯えて旧耐震を選ばないのはもったいない」という考えを持っています。
対して防災意識のある事業者は、「日本に住んでいる以上、必ず大地震が発生することを前提に住宅購入するべき」という考え方になります。
一般の消費者は住宅購入の際に様々なことを同時に検討しなければならないので、不動産事業者が「旧耐震でもそんなに心配することはありません」と言ってしまうと、大丈夫なのだと思ってしまうのです。
「旧耐震の物件ってどうですか?」と質問を投げかけるだけでその事業者のポリシーを確認することができるので、これから家を買い方は、事業者に耐震性について質問することをお勧めいたします。

トルコ大地震の被害をテレビ越しに眺めて、「次は我が身」と対策が取れる人と「対岸の火事」になる人とでいざという時の結果が変わります。
大地震が発生して建物が倒壊してから「国の制度が…」「あの時の業者が…」と言っても失われたものは戻ってきません。
住宅購入において耐震性を軽視しないよう心がけたいものです。